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2003-01-29

凧の科学

何十年かぶりに凧揚げというのをやってみた。義父が甥や姪達に作ってあげた、その凧は半紙1枚程度の小ぶりなものだが、結構丁寧に作ってある。何気に飛ぶだろうと思いつつ子供たちを手伝ってやりはじめたら、これが飛ばない。凧ってこんなに飛ばないものなんだろうか、こういうときはどうすればいいんだろうか、子供たちは寒い中揚がるのを待っている。さぁ、困った困った。

結局1時間ほど頑張ったところで寒さに耐え切れず断念した。そのときはどうすることもできなかったが、どうすべきだったろうかと反省を含めて凧について考えた。

トラブルシューティングの基本として、まず、現象を正確に把握することだ。どう飛ばなかったのか:一瞬揚がるのだが、すぐにくるくると回転してしまう。それに対して実施した施策:凧の下の方に重し代わりの厚紙をつけたが、意味なし。原因の究明:ここからが本題だ。

凧の正面から見て、凧に働く力は重力と浮力がある。浮力は揚力とも言うが、ここでは浮力と呼ぶことにする。重力は常に地面に向かって働く。浮力は風と凧の位置関係によって向きは変わるが、凧は常に風を正面から受けるし、糸によって角度が制限されているので、凧に対して常に一定の向きに働くとしよう。これらの力が、糸の中心のところ(糸目)が支点となって働いていると考えられる。

図のように、浮力の中心(浮心)、支点、重力の中心(重心)がまっすぐ一直線に働いていれば、回転することはなく、非常に安定した状態となる。これがずれていると不安定になるわけだ。
この図のようになっていたらどうだろう?支点を中心に、回転する方向の力が働く。しかし、
図のように、重力は常に下向きなので、ある程度回転した状態で均衡が保たれる状態があり、そこで安定してもよさそうである。そう、バランスが取れていない凧でも、風の強さによっては回転せずに揚がる状態がこれなのだ。ここで少し強い風が吹くと、たちまちバランスは崩れて凧は回転し始める。浮心、支点、重心がきっちりと一直線になっていてもダメなのである。

では、どうすれば良いのか?

実のところ、浮力は凧に対して常に一定の向きに働くとは言ったが、「頭の方に」とは言っていない。浮力のベクトルは、もしかしたら凧に対して斜めに向いてるのかもしれないのである。こうなると話はややこしい。しかし、よく考えてみよう。

重心のことなど考えず、浮心から浮力のベクトルの延長線上に支点があれば良いのではないか?
こんなふうになってるとしても、風が弱くて浮力が小さいときには、凧を回転させる力は重力しかないので、ある程度回転したところで均衡がとれて回転は止まる。風が強くて浮力が大きくなっても、やはりどこかで均衡がとれる。決してくるくると回転することはない。つまり、凧の糸目は、『浮心から浮力ベクトルの延長線上』に配置すべきなのである。

おいおい、それってどこだよ、というツッコミは多々あると思う。浮力は、微妙な歪みによって大きく変化してしまうから、もの凄く精度の高い工作でないと、計算で出すことはできないのだ。それではどうしようもないから、とりあえず浮力∝面積∝重さと考えて、重心の位置を参考にして設定するようである。しかし、これは目安でしかない。上の仮説によれば、はっきり言って重心のことなどどうでもよい。浮心とそのベクトルが知りたいのだ。

それには、風の無い室内で凧をぶら下げて、すっと上に持ち上げてやれば良い。この方法だと、重力の影響を受けないで浮力の方向を見定めることができる。何度かやってみて、最適な支点の位置になるように糸目を左右に振ってやればよい。細かく調整できるように、左右の糸の1本を自在結びにしておくと良いだろう。

糸目を調整する他に、もうひとつの手としては、浮心の位置を調整するという手もある。凧のどこかに小さなフラップをつけて、左右の浮力を変化させることによって浮心の位置が移動する。糸目をがちがちに結んでしまってどうしようもなければそうしよう。

よく長い尻尾をつけて調整しようとするが、それによって調整できるのは重心の位置である。上記理論によれば、凧の重心など無意味といっていいのだが、重心の位置をより下の方に下げることで確かに安定性は高くなる。しかし、凧が空に舞い上がるためには、重力以上の浮力が働かなくてはならないわけで、浮力による回転を止めるほどの重力を求めて長い尻尾をつけようとすると、決して飛ばない凧しかできないというわけだ。

ひとつの結論が出たところで、さらなる疑問も湧いてくる。

以上
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